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    プロローグ:スクショあり  [編集]

    ライトノベル  [編集]

    視界が揺らぐ。
    次いでおとずれる寒気、胸の痛み。

    急激な変化に連想するのは、

    ――『死』

    (オレ、死ぬ……のか……?)

    『勇者……勇者よ……。聞こえますか……。
    わたしは今、あなたの心に直接よびかけています……』

    床に膝から崩れ落ち、そのはずみで夜食にとテーブルに
    用意していたコンビニ弁当が飛び散ったとき。

    知らない女の声が聞こえた。

    『勇者よ、世界を救う勇気を持つ者よ……。
    あなたこそ、そう呼ばれるに相応しい……。
    どうかこちらの世界に来てください……』

    (ゆう……しゃ……? オレが……?)

    ついに床に倒れ伏し、意識が混濁の波に飲まれ始める。

    もうろうとする中、視線の先に転がったスマホの画面が
    何かを表示していた。

    世界で最後に見たのは、表示された画面の文字。

    【異世界へ行きますか?】

       ×  ×  ×

    「はーい、フォニアでーす。異世界によーこそ!
    私は召喚の女神、フォニア様よ!」

    目を開けるなり、テンションの高い女の声が響く。
    飛び起きると、妙な衣装の女が偉そうに仁王立ちしていた。

    「え、なに……?」
    「うわ、なにその胡散臭いものを見る目つき! ムカつく!」

    周囲を見回すと森の中だった。
    もしかして、と高鳴る胸を押さえながら立ち上がり、目の前の女に向き直る。
    自己申告どおり、確かに女神っぽい衣装を着てはいるが、果たして。

    「本当にお前は女神なのか? 衣装はよくできてるけど」
    「疑う要素、ある?」
    「女神って言えばもっとこう、尊く、気高く、美しく……みたいな?」
    「尊いでしょ、気高いでしょ、美しいでしょ!
    どこに目ぇつけてんのよ! ちゃんと見なさい!」

    言われたとおり、改めてじっくり見る。

    髪型は少し女神っぽいが、尊くはない。
    あと乳がでかい。

    衣装に散りばめられた装飾も豪華だが、気高くはない。
    あと乳がでかい。

    自信に満ち溢れた顔はまあ、ちょっと可愛いかも。
    あと乳がでかい。

    「どこ見てんのよ、変態!」
    「ちゃんと見ろって言ったのはそっちだろ!」

    「だいたいね、わたしが召喚してあげなかったらきみ、死んでたのよ?
    そこんとこわかってる?」

    (死んだ……? あの胸の痛み、やっぱりあれでオレは死んだのか……!!)

    目が覚めていきなりこんなところに倒れていて、
    女神を自称する怪しい女がふんぞり返っている。
    この状況が昨日までの日常と地続きになっているとは思えなかった。

    「思い出したみたいね。では改めて。異世界によーこそ!」
    「……つまり、あれか? 異世界転生だな?」

    興奮で指先が震えていた。
    それはずっと、本当に長い間、待ち続けていた奇跡。

    「き、来た……っ! これでオレもヒーローだ!
    平凡な人生にさようなら! 脱★モブ!」

    「で!? で!? 異世界転生と言えばあれだろ、オレにはとんでもない
    チート能力があるんだよな!? どんな能力なんだ!?」

    「あー、うん。説明するのめんどいから、これ読んどいてくれる?」

    手渡されたのは、スマホよりひとまわり大きいくらいの板だった。
    それは金属製なのか、少しひんやりしている。

    「ったく、雑な仕事だな……どこに尊さや気高さを感じろっていうんだよ。
    だいたい日本語で書いて……」

    「書いてないけど、読めるでしょ?」

    女神の言うとおり、文字は見たこともないものなのに
    意味するところがすんなり頭で理解できる。

    「なるほど、ホンモノの異世界転生ってのはこういうことか……!
    ちょっと感動するな、これ。で、この板の名前はスキルカード……ふんふん、なるほど。で、その効果は」

    【スキル名:ゴブリンの誘惑】
    【効果:相手に触れた部分から性的快楽を誘発し魅了することができる】

    カードに書かれた文字を見つめ、しばし硬直する。

    「エロゲかよ!」

    「もっとこう、他にいろいろあるだろ! 圧倒的な魔力とか、
    死んでも生き返るとか、有能で従順な美少女が助けてくれるとか!」

    「前世の経験を有効活用するパターンもあるけど、俺は別に特殊技能とか
    覚えてないから何もできねーし、スキルが頼りなんだよ!」

    「だいたいこのスキル名も、なんか絶妙にダサいっつーか……
    ん、ゴブリン?」

    振りかざしていたカードを、再確認する。
    確かにそこにはゴブリンを表す文字が並んでいた。

    「な、なあ、ゴブリンって……?」

    「あ、言ってなかったっけ? きみのことでーす!」
    「オレがゴブリン……!?」
    「ゴブリンは知ってるよね?」
    「ああ……RPGとかで最初に倒す雑魚で、頭が悪くて、本能だけで動いて、
    見た目も酷くて、嫌われ者で、数が多いだけが取り柄の……」
    「ピンポンピンポーン、正解でーす」

    急激に増える情報量に思考がついていかない。
    いや、それなりに異世界転生モノを嗜んできた脳に、自分が転生したという
    事実自体はすんなり馴染んでいた。
    なんなら、けっこうシミュレーションもしていた。

    だが、ゴブリンというのは……!

    「う、嘘だ」
    「ううん、ほんとほんと」
    「って言ってオレの驚いた顔が見たいとかそういう」
    「リアルガチよ」
    「嘘だぁぁあぁっ!」
    「あっ、ちょっと、どこ行くの!?」

    森の中を必死で駆け抜ける。
    冷静に考えれば、この森がどれほどの広さなのかもわからないのに、
    いきなり走り出すなんて無謀の極みだ。

    それでも、想定外の情報に埋め尽くされた思考は、
    とにかくそれを否定したいことだけで埋め尽くされていて、
    ただただ森の中を走り続けていた。

    (とにかく、誰かに会って確かめないと……!)

    ほどなくして、小さな集落に到着した。
    目についた落ち葉を箒で集めている初老の男性に、意を決して声をかける。

    「ぜぇ、はぁ、あ、あの、すみません。ちょっとお伺いしたいことが」
    「うぉらぁああああ!!」
    「待て待て待て! あぶねーって!」

    男性は箒を振り回して襲ってきた。
    話が通じそうにないとみて、慌ててその場から逃げ出す。

    (やっぱりゴブリンなのか? いや、待て。いきなりハアハアいって
    知らねー奴が近付いてきたら、普通に怖いよな)

    すぐに、民家の玄関先で買い物帰りのご婦人を発見する。
    今度こそ、と懸命に息を整えて声をかける。

    「こんにちは。ちょっとおうか――」
    「いやあああああ! 来ないでええええ! けがらわしいいい!」

    気を取り直して薪割りをしているお兄さんに……。

    「あの、すみませ」
    「死ねゴブリーーーーーーン!!」

    逃げまどいながら絶望する。

    (もうゴブリンって言ってるし!)

    気が付けば村じゅうから十数名の村人が、次々に武器になりそうな
    日用雑貨を手に、にじりよってきていた。
    これだけ村人に遭遇していれば、狭そうな村のことだから当然の状況だ。

    もちろん、全力で走って逃げる。
    成人してからこんなに全力で走ったのは初めてのことだった。

       ×  ×  ×

    「お帰りなさ~い」
    「ぜぇ、はぁ、ぜぇ、はぁ……おい、女神。どうなってんだ、これ」

    夢中で逃げ回ってなんとか森の中に入ると、
    しばらくして女神と遭遇した。

    「あのねー、わたしの名前はフォニア。美しく気高い女神の名前、
    二度と忘れるんじゃないわよ」
    「そんなことより」
    「そんなこと、ですって!? 気高い女神様のお名前問題が、そんなこと!?」
    「こっちは殺されかけたんだぞ! どうなってんだよ!」
    「だって、しょうがないじゃない。今のきみはゴブリンなんだもん」

    女神フォニアは、ごそごそと袖から手鏡を取り出した。
    顔に向けられた鏡面は、元の世界でよく知られるゴブリンに比べると
    だいぶ人間に近い顔立ちを映し出していた。

    しかし、額から生えた大きな角やその他の特徴が、
    やはりゴブリンなのだと表している。

    「走るスピードも、スタミナも、人間だった頃とは段違いでしょ?」
    「言われてみれば……」

    さすがに呼吸は乱れているが、もし元の世界で同じことをすれば数分で
    足がつって倒れているだろう。

    そもそも、あれだけの村人を振り切ることなんて、できるはずがない。

    「ゴブリン……これが俺の運命なのかよ。いや、もしかして、何か深い意味があったりするのか?」

    フォニアはにっこりと微笑んだ。

    「おもしろいかなって!」
    「おもしろくねーよ! お前、なにがしたいんだ!?」
    「んー、一言で言えば、復讐?」
    「復讐……?」

    フォニアが語ったところによれば、ご多分に漏れず、この世界にも
    魔物が跋扈していたという。

    それを撃退するために最も効果的だったのが、異世界から召喚される
    強力な英雄の存在だった。召喚の際に付与される、チート級の強力な
    スキルを使って、召喚された者はすぐに英雄となった。

    フォニアは女神として、そんな英雄を召喚して世界を救ってきたのだという。

    「でも、この世界の人間達は、わたしの力を盗んだの」

    長い時間をかけて少しずつ、女神の能力を解析し、
    自分達で行使できるように再構築した。

    召喚に成功し、魔物を退治して平和になった世界で、尊敬を集めたのは
    フォニアの力を盗んだ教団の神官たちと、彼らの召喚した英雄。
    女神フォニアの名前は語られることすらなくなった――

    「そんなの許せないでしょ!
    元はと言えば、ぜーんぶわたしの力のおかげなのよ!?」

    「だからわたしは、女神の本気の力ってやつを見せつけてやるのよ……!」

    気高い女神を自称しているくせに、ずいぶん邪悪な表情をする。
    よほど恨みがあるのか、元からこんな性格なのか。おそらく両方だろう。

    「きみは、そのために召喚された、真実を取り戻す神の使徒、
    理(ことわり)を正す正義の使者、世界を導く勇者になるの。
    ……ね、カッコいーでしょ?」

    「けどオレ、元の世界じゃしがないサラリーマンだからな。
    正直、勇者なんてガラじゃないぞ」

    しかも毎日残業続きで、社畜を極めたあまり死ぬところだった。
    いや、実際に死んだ。

    世界を導く勇者となるにはいろいろ足りない。
    にもかかわらず女神から与えられているのはマイナス補正ばかり……。

    「だいじょーぶ、だいじょーぶ。
    だってきみ、100人の女の子にアタックして100人全員にフられたんでしょ?」

    (は……?)

    思考が一瞬、凍結した。
    こいつ、今なんて言った?

    途端、襲い来る悲しき失恋の思い出の数々。

    ガキの頃にクラスで一番かわいかったあの子も。
    学生時代に隣の席になったあの子も。
    新入社員の頃、優しくいろいろ教えてくれた先輩も。

    全員に「ごめん、生理的に無理……」などと、心無いことを言われ、
    その度に死にたくなった、あの失意の日々!

    「なぜその過去をお前が……!?」

    驚愕する自分に、フォニアは生暖かい視線を向ける。

    「いやー、すごいよねー。
    フられてもフられてもフられ続けても決してめげない不屈の闘志!
    結果、見事な100連敗。これを勇者と呼ばずになんと呼ぶ!」

    「100連敗目指してたわけじゃねぇよ!
    って言うか、世界への復讐はどこ行った!?」

    そのとき、手元にあったスキルカードが突然赤く光り出した。

    (なんだこれ? 警戒色……?)

    「ちょっと、なんなの。怖い顔して突っ立ってるけど」
    「いやこれ、なんか赤くなってるから」
    「それは、きみの強い感情と連動して光るのよ。光ったらスキルが使えるわ」

    強い、感情……?

    「喜び、恐怖、怒り……感情の種類はなんでもいいんだけどね」

    つまり、いまのこの理不尽な状況に対する怒りが作用したのだろうか。
    言われてみれば確かに、待ちに待った異世界転生を台無しにされて、
    かなりフラストレーションは高まっている。

    「たぶん、わたしが可愛すぎて興奮しちゃったんでしょ!
    それ、エロい気持ちとかが高まっても光るからね。もう~。わたしが魅力的だからって、やめてよね~」

    (……確かにこいつ、やっぱり乳はでかいし、黙ってりゃ可愛いのかも?)

    「な、なによ、その目は……!
    あんたまさか本気で変なこと考えてんの!? この変態!」

    露骨に舐めまわすような視線を送っていると、
    フォニアは自らの肩を抱いてこちらから距離を取った。

    (けど、そもそもなんでオレがこんな目に遭わないといけないんだ?)

    ただ死んだだけで、怪しい女神の私怨に突き合わされて、
    ゴブリンに転生させられ、今は変質者のような目で見られている。

    この扱いはさすがにちょっと……。

    考え始めると、胃の中がグツグツと沸き始め、
    溜まっていたフラストレーションが怒りに変わる。

    手元のカードの赤い光が、先ほどまでよりも更に強くなった。

    (これは、まさか俺の感情とリンクして……?)

    もう一度、金属質なカードに書かれた内容へ目を通す。
    瞬間、カードの中で、ある一文が光り始めた。

    (これは……呪文? え、これ唱えなきゃいけないやつか……?)

    迷いはあったが、それが唯一残された可能性だというのなら、試すほかない。
    カードを握りしめ、全力で声を張り上げた。

    『 『 『 変身! ゴブリンキーング! 』 』 』

    まばゆい光がその場に満ち、
    凄まじい【力】の存在を、感じた――

       ×  ×  ×

    「うぅっ、自分で付与しといてなんだけど、このスキルやっばい……」
    「ちゃんと反省したんだな?」
    「今度からはナマイキ言わないで、きみの言うことに従うわよぉ……」

    すべてが終わった後、そこにいたのは放心状態のフォニアと、
    どこかスッキリした自分だった。
    改めて、輝きのおさまったスキルカードを眺める。

    【スキル名:ゴブリンの誘惑】
    【効果:相手に触れた部分から性的快楽を誘発し魅了することができる】

    (スキルの力、すげぇ……! すげぇけど……)

    使いどころが限定的すぎて、かなり悩ましい。
    どう考えてもこのスキルで世界をどうにかできるとは思えない。

    「スキルがどうであれ、俺がゴブリンなのは事実で、これはもう
    変えられねぇんだろ。だいたい普通に考えてゴブリンって弱くね?
    お前本当に復讐する気あるの?」
    「そこがいいのよ! 勇者とか言ってるくせに、底辺モンスターのゴブリンに蹴散らされて屈辱にまみれちゃうのよ。すごくいいじゃない!」

    あきれ半分に言ってため息をついたとき、
    異世界で聞くはずのない言葉が耳に届いた。

    「あっ、先輩!」

    (は……?)

    まさか会社の後輩も異世界に?
    なんて展開も考えつつ背後を振り向く。

    しかしそこに立っていたのは、妙にすました顔をした緑色のモンスターだった。
    さっきから光ったり、大声を出したりしたので注意を引いてしまったのだろう。

    「ゴブリン!? やっべ、逃げるぞ、フォニア!」

    思わず口にしてから、いや、待てよ……と思う。
    そもそも自分もゴブリンなら、逃げる必要はないはずだ。

    「こんなところにいたんですね。探しましたよ」
    「言ったろ? 心配いらねーって」

    後ろからもう一匹、違うゴブリンが合流する。

    (ん……? 言葉、普通にわかるんだな。
    ……って言うか、探しましたよって……?)

    「おいフォニア、なんでこいつらオレのこと知ってるんだ?」
    「あぁ、『きみ』の記憶が戻る前に、
    その身体の持ち主だったゴブリンの知り合いなのかもね」

    こそこそとゴブリン達には聞かれないよう小声で囁く。

    「先輩、その女性は……?」
    「綺麗な人ですたい~」

    すまし顔のゴブリンの背後からまた一匹
    今度はどこか抜けた雰囲気の小太りのゴブリンが顔を出した。

    「へ、へん……っ。どうってことねぇよ、そんなの。
    ちょっと露出度高めの服を着てるから目を引くだけだろ」

    そこに口を挟むのは二匹目として現れたゴブリンだ。

    ゴブリン達の視線が集まっていると感じたフォニアは、
    自信たっぷりの表情で両手を天に掲げ、高らかに宣言した。

    「コホン。わたしは召喚の女神、フォニアよ。
    ひれ伏しなさい、ゴブリンども!」

    ゴブリン達は三匹そろって右往左往と慌て始める。

    「め、女神……!? 本物ですたい~!?」
    「ふむ、ゴブ太くん、聞いたことがあります……!
    英雄を召喚する力を持つ女神、その名はフォニア……!」

    「あ、あぁ、やっぱりな。そうだと思ったぜ。
    オレには最初からわかってたんだ。そいつが女神だってな」

    おい、女神だって聞いて一匹完全に態度を変えたぞ。
    調子のいい奴だなぁ……。

    けど今ので、女神フォニアがこの世界ではわりと有名な存在だとわかった。

    「そーよっ! わたしがそのフォニアよ!
    ゴブリンどもよ、敬いなさい、崇めなさい、奉りなさい!」

    「ははぁーーっ! 女神様ーーーーっ!」

    ゴブリン達を従わせたフォニアは、得意げにこっちを振り向く。

    「どう!? これが本来、女神に対して向けられるべき敬意、
    然るべき扱いってものなのよ。
    みんな、昔はわたしのこと、このレベルで尊敬してたんだから!」

    「わかったら、きみもわたしのこと、もーっと尊敬していいのよっ!」
    「調子に乗るなっ!」

    思わずツッコミの要領でパァンッと尻を平手で叩く。

    「痛ぁい! けどっ、あぁんっ! ごめんなさい、ごめんなさい!
    ちょっと調子に乗りました! 謝るから、お尻だけは叩かないでぇ~!」

    涙目で、必死でお尻を隠そうとする女神かたなしのフォニア。
    そんなやり取りを見て、ゴブリン達がざわめいた。

    「……なん……だと……!? 女神を完全に支配下に置いている……?」
    「うらやましい……ぼくも女神様のお尻ぺんぺんしたいですたい……」

    「これは大ニュースですよ!
    先輩、早く集落に戻りましょう! さっそくみんなに知らせなくては!」

    「お、おう……?」

    あれよあれよと言う間に、ゴブリン達に囲まれる。

    会話の中に自然と巻き込まれると、
    このゴブリン達にもしっかり名前があることがわかった。

    最初に現れた冷静そうなのがゴブ助。
    一瞬で態度を変えた調子のいいのがゴブ郎。
    そして、おっとりした小太りなのがゴブ太。

    (けど、このままこいつらについてっていいのか……?
    今の自分はゴブリンだから問題ないっちゃないんだが……)

    自分を慕うゴブリン達の姿は、仕事場でのバイトくん達を連想させられる。
    要領が悪くて、いつも嫌味な上司に怒られていたけど、気のいい奴ら。
    彼らと繋げて考えてしまうと、冷たくはできなかった。

    こうして女神フォニアをつれて、
    ゴブリン達の拠点へ向かうことになったのだが、
    道すがら遠くから悲鳴が聞こえ、その足並みはすぐに止まった。

    「……おい、今のなんだ?」
    「オレにも聞こえたぜ! 行こう、先輩!」

    急ぎ森の中を駆け出す。
    そして――視界が晴れた瞬間、きな臭さが鼻をついた。

    「あれは……!」
    「そ、そんな……オレ達の集落が!?」

    目の前に広がった光景は、戦場だった。
    怒号と悲鳴、そして刃の重なり合う音が響く……。

    「醜く、人に害をなすゴブリンどもめ! 正義の裁きを受けるがいい!」

    大勢の甲冑に身を包んだ人間を引き連れて、
    先頭で勇ましく声を張り上げているのは金髪の女騎士だった。

    「おい! これはどういうことだ!?」
    「見ればわかるでしょう!? 騎士王国の騎士団ですよ!
    時々、魔物討伐と称して襲ってくるじゃないですか!」

    「うぅぅ……先輩~……」

    さきほどまで気の抜けた顔をしていたゴブ太が
    目の前に広がる一方的な蹂躙に震え出す。

    (そんな目で見るなよ……。
    オレには関係ない……たまたまゴブリンに転生させられた
    だけなんだし、助けてやる義理なんか……)

    相手は甲冑で身を固めた戦闘のプロ。
    対してこっちは非力なゴブリン。

    (どう見ても勝ち目は薄いよな……でも……)

    「できるかどうか、じゃないわ。やるのよ!」
    「フォニア!?」

    よく通る声が、場の空気を一変させる。

    「先輩……!!」

    そして、ゴブリン達のすがるような瞳――

    (やめろよ……オレだって底辺のゴブリンなんだぞ!?)

    (オレだって……オレだって……けど……――)

    「くっそー、やってやるっ!!」

    気付けば、駆け出していた。
    目標、金髪の女騎士。

    「オレが相手だ!」
    「むっ! 新手か! 我が剣の煌めきの下に滅びるがいい!」

    一閃、女騎士の刃が宙を薙ぐ。

    「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」

    ハンパなく強烈な一撃に、一気に元いた場所まで吹っ飛ばされた。

    「きゃはははははっ! ださっ! だっさ! 弱っ! きみ、ちょろすぎ!」
    「おぉい! このクソ女神! 一応こっち側だろ、お前は!」

    人の命がけの行動を爆笑する女神。
    ほんとこいつ腹立つな……って今はそんな場合じゃない!

    「ふん……ゴブリン風情が……。
    その程度の実力で立ち向かうとは。それは勇猛ではない、無謀というのだ」

    女騎士は虫けらを見る目で吐き捨て、再び剣の柄を握り直した。

    「くっそ、偉そうにしやがって!
    そっちだって、ただの女騎士だろうが!」

    けど、非力なゴブリンとはいえ、
    ここまで一方的にボコられるものなのか?

    「ふん……甘いな、私はただの騎士ではない」

    女騎士は長い髪をかき上げると、
    居丈高と声を張り上げた。

    「我が名はアルテ!
    異世界より召喚されし、七英雄が一人……!」

    (え……こいつも、異世界から召喚されて……!?)

    虚を突かれながらも、
    なんとか痛む体を起こし、地面から立ち上がる。

    しかし女騎士はすでにこちらから興味を失い、
    剣を鞘に納めると青いマントを翻した。

    「ふんっ……すでに拠点は潰した。
    放っておいてもどうせ残りは野垂れ死ぬだろう……行くぞ!」

    「はっ、アルテ様!!」

    部下を引き連れ、
    女戦士はゴブリン達の集落から去っていく。

    その後ろ姿を、ただ茫然と見送った――

       ×  ×  ×

    「くっそー! あのアルテとかいう女騎士、言うだけ言って
    勝ち逃げしやがって!!
    けど、あんなバケモン相手に勝てる気がしねぇ……」

    女騎士が去って、最初に口から出たのは
    そんな情けない言葉だった。

    「うーん、ゴブリン達の集落も、一瞬でこんなにされちゃったもんね……」

    「へん、このくらいどうってこたねぇよ」

    凹みかけていた心をゴブ郎の声が引き上げた。

    「……そうなのか?」
    「えぇ。確かに荒らされはしましたが、
    私達のテリトリーからすれば、ごく一部にすぎません」

    「ほら先輩、こっちこっち!」

    残骸となった集落の中をゴブ太に手を引かれて歩く。
    すると森の木々に囲まれた一角を越えたところで――。

    「お。おお、なんだこれ!!」

    そびえ立つ建物の大きさに、まさかと口から声が飛び出た。

    「こちらが私達の真の拠点。
    先ほど集落は、騎士団の目を欺くものですから」

    「けど、よく気づかれなかったな……」
    「森を上手く使い、念入りに隠してありましたからね。
    負傷者もさほど出てはいないでしょう」
    「いざとなればこれ、解体できるしな。逃げた後でまた、組み立て直せば
    元通り、ってわけだ」

    見れば、拠点の中からは同じ緑の肌をしたゴブリン達が
    こちらの存在に気付き、わらわらとあふれ出てくる。

    (無事、だったのか……)

    何故かホッとする自分がいる。

    けど次に思い起こしたのは、
    先ほどのアルテという女騎士と自分との圧倒的な実力の差だった。

    「オレだって異世界召喚されたんだぞ。なんだ、この格差……。
    このまま、やられっぱなしかよ……!」

    悔しさに拳を握りしめる。

    「んー? そんなことないわよ」

    緊張感のないフォニアの声。
    しかしわずかな可能性を感じて顔を上げる。

    「……何かできることがあるのか?」

    「そーねー……わたしにきちんとお願いするなら考えてあげなくもないよ」
    「お、お前……」

    こいつ、ほんとに腹立つな……!
    けど、今はそれよりも事実確認が先だ。

    「言ったでしょ。わたしは召喚の女神よ。
    教会のせいで、いろいろアイテムも取り上げられちゃったし
    能力にも少し制限はあるけど……」

    本日、何度目かになる女神を称えよのポーズを取るフォニア。

    「異世界から新たな英雄を召喚すればいいのよ!
    召喚するのがどんな雑魚でも、少なくともゴブリンよりはマシだし」

    こちらを見て、ケラケラと笑い出すフォニア。

    「そういうことは、もっと早く言え~~~~~~~~!」

    魂の叫びと共に、胸の中にしまっておいたスキルカードが
    再び強い光を放ったのだった。

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